2011年10月12日水曜日

雲南省長江上流域調査の旅 (その3)

 揚子江プロジェクトでは、10g近い懸濁物を採取して東大と南京大のグループ間で分配し、同一試料について化学組成、鉱物組成、粒度、有機物など、多様な分析を行う予定である。10gの懸濁物の採取と簡単に言うが、それは、実は常識外れな量なのである。それだけの懸濁物を回収する為に、南京大グループは、1地点で100リットル以上もの水を採取するのである。水を満たした25リットルポリタンクを持って、何十段もの階段を上がらねばならない。南京大の女子学生に25kgもあるタンクを持たせる訳にもいかないし、私は腰を痛めているので、10kgの小型タンクを持つのがやっとである。一方、Zheng教授は、50歳の働き盛りで、体格も良いので、25リットルタンクを2つ運ぶ。残りの2つをKeitaYoshiakiが運ぶのである。Keitaは、背は高いが力はそれほどないので、休み休み運び上げる。Yoshiakiは、岩場登りが趣味と言うだけあり、一気に運び上げる。こうして2地点採水すると、車はタンクで一杯となる。その日の採水作業は終了である。
今回の調査では、合計7地点で採水を行い、前回は、10地点以上で採水を行った。それだけの水を運びながら調査を続けるには、中型トラックが必要になる。それは、余り現実的でないので、南京大グループは、吸引ポンプ2台と大型フラスコ4つをホテルの自分達の部屋に持ち込んで、その日のうちに濾過を行う。一晩で200リットルを濾過しなければならないので、作業は夜中の1時をすぎる事もしばしばである。終わるまではシャワーも浴びられないが、二人は率先して熱心に働く。

中国は今、高度経済成長の真っ只中で、下克上の時代である。人一倍働いて結果を出せば、更なるチャンスが得られる。出身地や性別は、それほど関係しない。また、インターネットや携帯の発達で、情報統制が余り効かなくなっているので、特に大学に通う若者達は、海外の情報をかなり良く把握しており、考え方もリベラルである。日本の1960年代を見ているような錯覚に、時々陥る。
また話が脱線したが、南京大グループは、機械とウーマンパワーで、常識を打ち破る量の懸濁物試料を現地で集めるのである。ただし、彼女らは、オイルの飛散を防ぐ機能を持っているとはいえ、オイルポンプを使って強烈に吸引している為、オイルによるコンタミ(試料に微量のオイルが混入して汚染される事)は、まぬがれ得ない。そこで、我々、東大グループは、日本から電動アスピレータを持ち込み、12リットルの河川水試料を濾過する事で、有機物分析用の懸濁物採取する作業を分担した。アスピレータは、水流により陰圧を作り出すので、コンタミの心配は無いが、吸引力は、オイルポンプの数分の一程度である。将来の中国と日本産業の棲み分けの姿を見ているようでもあった。Keitaは、慎重で丁寧だが仕事は遅い。東大グループの作業も、零時を周る事がしばしばだった。(つづく)
(多田)

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