2012年8月5日日曜日

水月湖の先行研究(1)-SG06に至るまで

どうも。またしても烏田です。
追われているものが終わり更新頻度上げようと思ったら、
色々疲れが出て睡眠してばかりでした(笑)
明日で丸々一ヶ月になりますしね。少しづつ疲れが出てくる時期だとは思います。

ではでは今日は前の記事で書けなかった部分のお話を消化していきましょう。
ちょっと長くなるかもなのでご注意を。


今日は水月のこれまでの研究掘削の話。

先日の記事(ツアーと取材を参照のこと)で水月湖の研究が貝塚の研究から始まったことはお話したと思います。

その時は貝塚に近い三方湖で掘削が主に行われていたのですが、掘削の時間とお金が余ったため隣りの水月湖で掘削をすることになり、そこで初めて水月湖の年縞か発見されました。1993年のことになります。

これは水月湖が
①水の流入がほぼ三方湖からで、河川からの泥が三方湖でほとんど落ちた後に水月湖に流入することで泥の流入が極端に少ないこと
②断層湖なため水深が深いこと
この2つの条件を満たしているために主に形成されます。

この条件を満たしているため
(1)季節による異なった種類の堆積物(珪藻などの生物死骸や黄砂、川からの泥など)が綺麗に堆積される(普通の湖では河川からの泥がとても多いため難しい)
(2)水深が深いため湖が成層化を起こして湖底が貧酸素の環境になり、湖底に生物、酸素がないため有機物の分解や生物による湖底のかき乱しがなくなる
という特殊な環境が形成されます。

そのため季節により異なる堆積物(各季節により色が異なる)がかき乱されることなく綺麗に保存されるため年縞が水月湖で確認された訳です。

そしてこの年縞はおよそ7万年(7万枚)近い時代までさかのぼることが出来ることが分かりました。


しかし当初この美しい年縞をどういう形で研究に活かすかが誰にも分かりませんでした。

が、この年縞を「年代の補正」に用いることが可能であるということに現 名古屋大学教授の北川先生が気付かれ、先生は水月湖のサンプルを用いて年代の補正を行うことを試みました。

この「年代の補正」という部分に?となる人が多いと思います。
過去の歴史or地質研究を行う人にとって「年代」は常につきまとう大きな問題です。

年代が分からないと堆積物の記録から発見された変動の意味が分かりませんし、かつ他の地域の記録との比較ができません。

ですので年代決定は研究の上で非常に大きなポイントになるのですが、この算出が実はやっかいなのです。

特に過去5万年の年代算出には14C(放射性炭素)年代がよく使用されるのですが、この放射性炭素を用いた年代算出にはいくつかの仮定が入っています。

それは
①放射性炭素量が現在と過去で同じである
14C年代を求める際に慣例的に使用されている放射性炭素の半減期(5,568年)が実際の半減期(5,730年)と異なる
14Cは様々な炭素リザーバーの間を行き来しており、大気中の14Cが一定の定常状態に達しないため
という仮定です。

しかし、これはこれまでの研究で仮定が間違っていることが判明しているためよりよい年代を出すために補正を行わなければなりません。
(一応参考に・・ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E6%80%A7%E7%82%AD%E7%B4%A0%E5%B9%B4%E4%BB%A3%E6%B8%AC%E5%AE%9A)


ここに水月湖の年縞が役に立つ訳です。

水月湖は年縞の数を一番上から下に数えるだけで暦年代が分かります。
単純に2000枚あれば2000年前という形で。
そしてその場所の放射性炭素年代を測ると1940年などという多少ずれた値がでます。
この差こそが上に述べた仮定から発生した年代誤差になるわけです。

ここから縞の数数えと放射性炭素の同時測定によって放射性炭素年代誤差の補正が可能になりました。

北川先生は3年もの時間をかけて縞数え(45000枚)と放射性炭素年代の測定(250点以上)を行われてその成果はscienceの論文として世界に公表されました。
 http://www.sciencemag.org/content/279/5354/1187

この成果は非常にインパクトがあり放射性炭素年代の較正データ(Intcalと呼ばれるデータセット)に載る予定でした。


しかし北川先生のデータが反映されることはありませんでした。

これは北川先生の出されたデータについて一部他の同様な研究結果には見られない特徴があったことと 北川先生の使用された水月湖のコアが一部欠損が存在し、その欠損の評価に問題があったことが大きな理由となっています。


そのため水月湖の研究が一時期行き詰まってしまいます。
この行き詰まった状況を新たに打破されたのが先日から名前が沢山でているニューカッスル大学の中川先生になります。

前回の反省点を踏まえて水月湖にどういう形で2006年の再掘削(SG06)に挑んだかについてはまた長くなりますので次回に持ち越しということで。

ではでは。
最後に参考文献をば。

水月湖の年縞:過去7万年の標準時計
www2.jpgu.org/publication/jgl/JGL-Vol6-4.pdf
INTCALのお話(横山研のD1窪田君のブログより)
http://palaeo-kuroneko.blogspot.jp/2012/07/intcal.html 

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