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2012年4月13日金曜日

新着論文

D3になりました久保田です。

Quaternary Science Reviews からの新着論文です。
New paper about East Asian summer monsoon has published in QSR.


Title: Anti-phased response of northern and southern East Asian summer precipitation to ENSO modulation of orbital forcing

Author: Shi et al. 

URL:  http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379112001060
QSR, 40, 30-38.

--Summary--
They analyze modern observational SST and precipitation data. The important point is that they discuss the difference in response of ENSO (eastern Pacific SST) on  southern and northern precipitation in China at present. 
For paleo, they use transient model to show the different response of insolation change on precipitation in southern and northern China for last 300ky. The precession maxima correspond to precipitation max in northern China and to precipitation min in southern China.





2011年6月23日木曜日

300万年前のエルニーニョ南方振動の証拠

D2の久保田です。
論文紹介です。
東赤道太平洋のコア から浮遊性有孔虫を使って温度躍層の経年変動を復元するという手法です。
ODP site 846はLawrence et al.(2006, Science)にも載った東赤道太平洋を代表するコアですね。
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赤道域は大量の熱を貯蔵しているので、将来の温暖化に伴いENSOがどう変動するのかは、重要な問題である。その点で、今から300万年前の温暖期は将来の温暖化世界のアナログとして注目されている時代である。先行研究では、恒常的にEl Ninoの状態が続いていたのではないかと言われているが、数年スケールのENSOが存在したのかどうかは明らかにされていなかった。
この研究では、3種類の浮遊性有孔虫を使い、8つのタイムスライスで有孔虫の酸素同位体比の分析を行い経年変動の変動幅を復元した。用いられた種は、生息深度の違うG. ruber, G. minaridii, N. dutertreiである。この3種について個体ごとの酸素同位体比(1種につき40個体)の分析を行っている。
その結果、300万年前にも現在と同様な数年スケールのENSOが存在したことを示唆し、その変動幅も現在と同程度であった。
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Persistent El Niño–Southern Oscillation variation during the Pliocene Epoch
N. Scroxton,S. G. Bonham, R. E. M. Rickaby, S. H. F. Lawrence, M. Hermoso, and A. M. Haywood
PALEOCEANOGRAPHY, VOL. 26, PA2215, doi:10.1029/2010PA002097, 2011

2011年5月23日月曜日

Clementz & Sewall (2011) Science, 332, 455-458. 過去から見る地球温暖化後の水循環

“Latitudinal gradients in Greenhouse seawater d18O: Evidence from Eocene sirenian tooth enamel”

大気中のCO2濃度が1000ppm(IPCCの 2100年予測)を超える温室世界における水循環はどうなるのだろうか?その答えを求める方法の一つが、過去にそのアナロジーを求める方法である。今から56003400万年前にかけての始新世と呼ばれる時代は、大気中のCO2濃度が1000ppmを超え、両極には氷床が存在せず、全球平均気温が現在より12度近く高かった地球史の中で最も新しい温室世界の時代である。こうした遠い過去の時代の水循環は、どの様にしたら調べることが出来るのだろうか?その一つの方法として、緯度方向の海洋表層塩分の勾配を見る方法がある。

現在の海洋表層塩分は、大気の子午面循環の影響を受け、ハドレー循環の上昇部にあたる赤道域では、降水の影響を受けて低塩分の表層水が、下降部では乾燥した大気が地表に吹き付けるため、高塩分の表層水が発達する。そして、ハドレー循環が強まるほど、そのコントラストが増すことが期待される。過去の海洋表層塩分を復元する場合、表層水の酸素同位体比を利用することが多い。それは、降水の酸素同位体比は海水より軽く、一方、蒸発により表層水の塩分と酸素同位体比は上がるからである。しかし、表層水中に棲んでいた石灰質や燐灰質の化石の酸素同位体比を用いて表層水の古塩分を復元するには、同時にその時の水温を知る必要がある。これは必ずしも容易なことではない。

筆者らは、海牛類(哺乳類)の歯のエナメル質の酸素同位体比を用いることにより、巧妙に温度の影響を取り除き、始新世およびそれ以降の緯度方向の表層塩分プロファイルを復元した。すなわち、海牛類の体温が37℃でほぼ一定であることを利用したのである。(この手法は、実は1990年代に、日本の研究者により既に提案されていた。)その結果、特に熱帯収束帯(ITCZ)と亜熱帯高圧帯の間の表層塩分勾配が始新世においてはそれ以降より強く、低緯度域(<30度)がより湿潤な環境にあったことを示した。更に大気循環モデルを用いて、大気中のCO2濃度が800および3000ppmの条件下で、こうした状況が再現されることを確認した。

この研究結果は、温室世界における水循環がより強いハドレー循環とより湿潤な低緯度環境で特徴づけられることを示すものである。また、赤道域がより低塩分化するということは、酸素同位体比に基づいた温室世界におけるこれまでの表層水温推定が過大評価である可能性も示唆する。

(多田)

2011年5月15日日曜日

過去数十万年の南極の気候変動は局地的な日射量変動で説明できる(Laepple et al., 2011, nature)

 D2の久保田です。
今日の論文は、nature 3月3日号のLetterから南極の氷床コアについての論文です。

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要旨:
雪の酸素同位体比は、水蒸気から雪が凝結するときの気温に依存する。この関係を使って、南極の氷床コアに記録されている氷の酸素同位体比の変動は、南極の気温を反映していると考えられてきた。このようにして復元された南極の気温は南極の夏の日射量変動ではなく、北半球の夏のN65°の日射量変動と相関しており、北半球のN65°の夏の日射量が全球的な気候変動を支配しているというミランコビッチ理論を裏付けるものとされてきた。
しかし、今回の研究では、南極の降雪がどの季節に多いのかを南極のいくつかの基地で観測して調べた結果、南極の積雪量は南半球の夏に少なく、冬に多いことが分かった。この効果(Recording system)を入れて、降雪量を季節的に重み付けし、南極の日射量の変動カーブを計算すると、氷床コアの記録とよく一致していることが分かった。つまり、南極の気温の変動カーブは南極の局所的な日射量変動と相関があるということだ。細かく見れば、特に融氷期で気温変動のカーブよりも積雪量で重み付けされた南極の日射量のカーブがリードしているが、大局的には一致している。また、この積雪効果を入れた日射量のカーブは、前述の北半球の夏の日射量変動のカーブとも一致している。
つまり、南半球のlocalな日射量がたまたま北半球の夏の日射量と一致していたのだ。南半球の氷床コアの記録はミランコビッチ理論を支持すると考えられてきたが、南極の氷床コアのデータの解釈には特に気をつけるべきである。
今回の結果からは、氷期から間氷期の移行には、北半球だけではなく南半球の海氷やCO2の放出源としての南大洋の変動も影響していた可能性が示唆される。

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感想:

北半球の日射量が南極も含めた全球的な気候変動を決定しているというミランコビッチの仮説には、北半球の夏の日射量の影響がどのように南半球まで波及するのかまだ完全に分かっていないという欠点があった。大西洋の深層水循環がこの役割を担っているという説が有力だが、まだそのメカニズムは完全には解明されていない。Terminationがどういったメカニズムで起こるのか、とても面白い問題だ。


論文:
Synchronicity of Antarctic temperatures and local solar insolation on orbital timescales

Thomas Laepple,  Martin Werner & Gerrit Lohmann
Nature 471, 91–94 (03 March 2011) doi:10.1038/nature09825

2011年5月2日月曜日

Tokinaga and Xie (2011) Nature Geo., 4, 222-226 人間活動の気候への影響はCO2だけとは限らない

“Weakening of the equatorial Atlantic cold tongue over the past six decades”
赤道域の海洋は、地球のヒートエンジンであり、赤道の高水温領域は赤道域の降水帯(ITCZ)の位置を規定しているので、赤道域のSSTの時空変動とその制御要因を知る事は重要である。しかし、大気海洋結合GCMは、これまでのところ、(大西洋)赤道域のcold tongue(赤道湧昇のため海洋の東縁に形成される舌状冷水域)や貿易風をうまく再現できていない。そこで、著者らは、大西洋赤道域の過去60年間の観測データを再解析して特に東西海域のSST勾配の指標(ΔSSTeq)を調べ、ここ60年間でcold tongueが弱まるとともに年年変動の振幅も小さくなっていること、特に夏においてその傾向が著しいこと、特に東赤道大西洋において温度躍層の水深が深くなってきていること、同じく東赤道大西洋で貿易風が弱まってきていること、を示した。これは、Atlantic-Ninoが弱まっていることを意味する。また、こうした変化の結果、雲が多い領域や降水域が南にシフトしており、それはITCZの南へのシフトを意味する。こうした変化を引き起こした原因としてAMOC(大西洋における海洋による緯度方向の熱遠循環)の変動は考えづらく、GCMによるシミュレーション結果を元に、人為的なエアロゾル(特に硫酸エアロゾル)による可能性が高いと結論付けている。
人間活動の気候への影響はCO2だけではなく、たとえばエアロゾルの影響も無視できないようである。

(多田)

2011年4月22日金曜日

論文紹介:三畳紀/ジュラ紀境界(約2億年前)の火成活動に連動した大気CO2濃度変動(Schaller et al., 2011Science)

Atmospheric Pco2 Perturbations Associated with the Central Atlantic Magmatic Province
Morgan. Schaler et al., 2011, Science 4, 236–239
 三畳紀/ジュラ紀(T/J)境界は,顕生代最大規模の絶滅事変の一つで,その原因として大規模火山活動の影響が指摘されています。その証拠として絶滅と同時期の洪水玄武岩(Central Atlantic Magmatic Province;通称CAMP)があり,この火山活動に伴って放出されたCO2が温暖化を引き起こして絶滅が起きたというシナリオでした。しかし,火山活動の前後における大気CO2濃度変動の証拠はありませんでした。

この論文では,Newark超層群のT/J境界前後の古土壌の炭素同位体比変動から,当時の大気CO2度を推定しました。土壌中のCO2濃度は有機物の分解により大気CO2濃度より高くなっているため,大気と土壌のCO2濃度差が高いと拡散速度が速くなります。この拡散に応じて同位体分別が引き起こされるため,土壌CO2度などを仮定することで大気CO2濃度を推定できます。研究対象のNewark超層群には火山活動の証拠である洪水玄武岩が60万年間に3層も堆積しているため,それぞれの火山活動と二酸化炭素濃度変動を直接比較できます。

その結果,3層の洪水玄武岩各々の直上で大気CO2濃度が約2000ppmから4000ppmまで上昇し,その後徐々に減少していく傾向を発見しました。最下層の洪水玄武岩が恐竜の足跡化石や植物化石などからT/J境界直前に対応することが知られています(Olsen et al., 2002Science, Whiteside et al., 2010PNAS)。すなわち,彼らの結果は最初の火山活動に伴う大気CO2増加によって大量絶滅がおこり,その後の温暖化によって“新鮮“な洪水玄武岩が風化され,大気CO2濃度が減少したと解釈されます。噴火直後の“新鮮“な洪水玄武岩は風化されやすく,ケイ酸塩風化の過程で大気CO2濃度を減少させたと考えられます.この大気CO2濃度の減少は,Dessert et al. (2010)による地球化学シュミレーションの結果とも調和的でした。これらの結果から,著者らは大規模火山活動とその後の大気CO2濃度の増加-減少,そして大量絶滅との前後関係を,初めての地質学的証拠から実証しました.
余談ですが,この論文の著者のMorgan Schallerは今年博士を取ったばかりのイケメンで、私がコロンビア大学留学中の調査などでお世話になりました。これからの大気CO2濃度変動と気候変動に関する研究の発展に期待されます。

(池田昌之)

2011年4月18日月曜日

論文紹介:更新世(約180万-1万年前)に起きたカスピ海・地中海から黒海への水流入の証拠

このブログでは、研究室のランチミーティングで紹介された論文を随時紹介していきます。興味のある方は原典もご参照下さい。

Pleistocene water intrusions from the Mediterranean and Caspian seas into the Black Sea
S. Badertscher et al., 2011, Nature Geoscience 4, 236–239

黒海は、ヨーロッパとアジアの間にある内海で、マルマラ海を経てエーゲ海、地中海に繋がります。黒海の海水は、河川から流入した冷たい低塩分の表層水と、地中海から流入した暖かく塩分の濃い深層水が混ざらずに層状になるため、深層は酸素欠乏状態になっています。それでは、黒海におけるこの河川の水(汽水)と地中海の海水の交流は過去どのような歴史をたどってきたのでしょうか?この課題に取り組んだのが本論文です。
Badertscherらは、黒海南縁に位置する北トルコSofular洞くつの石筍(鍾乳石)が記録する酸素の同位体比に注目しました。石筍が記録する酸素同位体比は、当時の水蒸気の組成を反映するとすれば、黒海に近い位置で形成した石筍は黒海の海水の酸素同位対比を反映する、と考えたのです。石筍より測定された過去およそ67万年間の酸素同位体比の変動記録は、地中海の海水由来と考えられる重い酸素の同位体比組成を示す時期が12回、カスピ海の汽水よりもたらされたと考えられる軽い酸素同位対比を示す時期が7回あることを示しました。石筍の記録は、途中に欠けてている部分があるので、黒海にこれらの水が流入した回数はもっと多かったかもしれません。地中海の海水が黒海に流入したと考えられる時期は、当時の海水準が高くなった時期とよく一致しました。当時の海水準変動と比較すると、52万年前(酸素同位体ステージ 15)以降の時代は、地中海と黒海を隔てた陸橋の高さは現在と大きく変わらなかったことがうかがえます。また、汽水流入と考えられる軽い酸素同位体比の影響は、16万年以前の記録の方がそれ以降のものよりも大きいので、大きく氷床が張り出した中期更新世の時代の方が溶氷による水の流入が手伝って黒海への汽水の流入量が大きかったのではないかと、この研究では指摘されています。

最低でも12回地中海の海水と交流があったということは、その間に黒海の環境はどのように変わったのでしょう。還元環境の研究を目指すものとしては、とても興味があります。(高橋聡)