2011年5月15日日曜日

過去数十万年の南極の気候変動は局地的な日射量変動で説明できる(Laepple et al., 2011, nature)

 D2の久保田です。
今日の論文は、nature 3月3日号のLetterから南極の氷床コアについての論文です。

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要旨:
雪の酸素同位体比は、水蒸気から雪が凝結するときの気温に依存する。この関係を使って、南極の氷床コアに記録されている氷の酸素同位体比の変動は、南極の気温を反映していると考えられてきた。このようにして復元された南極の気温は南極の夏の日射量変動ではなく、北半球の夏のN65°の日射量変動と相関しており、北半球のN65°の夏の日射量が全球的な気候変動を支配しているというミランコビッチ理論を裏付けるものとされてきた。
しかし、今回の研究では、南極の降雪がどの季節に多いのかを南極のいくつかの基地で観測して調べた結果、南極の積雪量は南半球の夏に少なく、冬に多いことが分かった。この効果(Recording system)を入れて、降雪量を季節的に重み付けし、南極の日射量の変動カーブを計算すると、氷床コアの記録とよく一致していることが分かった。つまり、南極の気温の変動カーブは南極の局所的な日射量変動と相関があるということだ。細かく見れば、特に融氷期で気温変動のカーブよりも積雪量で重み付けされた南極の日射量のカーブがリードしているが、大局的には一致している。また、この積雪効果を入れた日射量のカーブは、前述の北半球の夏の日射量変動のカーブとも一致している。
つまり、南半球のlocalな日射量がたまたま北半球の夏の日射量と一致していたのだ。南半球の氷床コアの記録はミランコビッチ理論を支持すると考えられてきたが、南極の氷床コアのデータの解釈には特に気をつけるべきである。
今回の結果からは、氷期から間氷期の移行には、北半球だけではなく南半球の海氷やCO2の放出源としての南大洋の変動も影響していた可能性が示唆される。

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感想:

北半球の日射量が南極も含めた全球的な気候変動を決定しているというミランコビッチの仮説には、北半球の夏の日射量の影響がどのように南半球まで波及するのかまだ完全に分かっていないという欠点があった。大西洋の深層水循環がこの役割を担っているという説が有力だが、まだそのメカニズムは完全には解明されていない。Terminationがどういったメカニズムで起こるのか、とても面白い問題だ。


論文:
Synchronicity of Antarctic temperatures and local solar insolation on orbital timescales

Thomas Laepple,  Martin Werner & Gerrit Lohmann
Nature 471, 91–94 (03 March 2011) doi:10.1038/nature09825

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