2011年4月22日金曜日

論文紹介:三畳紀/ジュラ紀境界(約2億年前)の火成活動に連動した大気CO2濃度変動(Schaller et al., 2011Science)

Atmospheric Pco2 Perturbations Associated with the Central Atlantic Magmatic Province
Morgan. Schaler et al., 2011, Science 4, 236–239
 三畳紀/ジュラ紀(T/J)境界は,顕生代最大規模の絶滅事変の一つで,その原因として大規模火山活動の影響が指摘されています。その証拠として絶滅と同時期の洪水玄武岩(Central Atlantic Magmatic Province;通称CAMP)があり,この火山活動に伴って放出されたCO2が温暖化を引き起こして絶滅が起きたというシナリオでした。しかし,火山活動の前後における大気CO2濃度変動の証拠はありませんでした。

この論文では,Newark超層群のT/J境界前後の古土壌の炭素同位体比変動から,当時の大気CO2度を推定しました。土壌中のCO2濃度は有機物の分解により大気CO2濃度より高くなっているため,大気と土壌のCO2濃度差が高いと拡散速度が速くなります。この拡散に応じて同位体分別が引き起こされるため,土壌CO2度などを仮定することで大気CO2濃度を推定できます。研究対象のNewark超層群には火山活動の証拠である洪水玄武岩が60万年間に3層も堆積しているため,それぞれの火山活動と二酸化炭素濃度変動を直接比較できます。

その結果,3層の洪水玄武岩各々の直上で大気CO2濃度が約2000ppmから4000ppmまで上昇し,その後徐々に減少していく傾向を発見しました。最下層の洪水玄武岩が恐竜の足跡化石や植物化石などからT/J境界直前に対応することが知られています(Olsen et al., 2002Science, Whiteside et al., 2010PNAS)。すなわち,彼らの結果は最初の火山活動に伴う大気CO2増加によって大量絶滅がおこり,その後の温暖化によって“新鮮“な洪水玄武岩が風化され,大気CO2濃度が減少したと解釈されます。噴火直後の“新鮮“な洪水玄武岩は風化されやすく,ケイ酸塩風化の過程で大気CO2濃度を減少させたと考えられます.この大気CO2濃度の減少は,Dessert et al. (2010)による地球化学シュミレーションの結果とも調和的でした。これらの結果から,著者らは大規模火山活動とその後の大気CO2濃度の増加-減少,そして大量絶滅との前後関係を,初めての地質学的証拠から実証しました.
余談ですが,この論文の著者のMorgan Schallerは今年博士を取ったばかりのイケメンで、私がコロンビア大学留学中の調査などでお世話になりました。これからの大気CO2濃度変動と気候変動に関する研究の発展に期待されます。

(池田昌之)

1 件のコメント:

  1. 1年以上経ってのコメントっていうのも何ですが,たまたま古土壌の炭酸塩について検索したらヒットしたのでちょっとヒトコト.古土壌炭酸塩の13Cから古pCO2を推定するロジックは,基本的には13Cの大きい大気CO2と13Cの小さい植物の根呼吸起源CO2の混合率を算出するものだと思います.炭酸塩の元になる土壌中CO2は,拡散の影響で根呼吸起源CO2よりd13Cが4.4‰ほど大きくなるので,炭酸塩13Cの値のうち4.4‰分はこの拡散の影響ですよ,というのがCering and Quade (1993)に解説されたことだと思います.別にここに紹介された論文の本質とは関わらないのですが,私も好きな分野なのでコメントしてみました.

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