2011年4月18日月曜日

論文紹介:更新世(約180万-1万年前)に起きたカスピ海・地中海から黒海への水流入の証拠

このブログでは、研究室のランチミーティングで紹介された論文を随時紹介していきます。興味のある方は原典もご参照下さい。

Pleistocene water intrusions from the Mediterranean and Caspian seas into the Black Sea
S. Badertscher et al., 2011, Nature Geoscience 4, 236–239

黒海は、ヨーロッパとアジアの間にある内海で、マルマラ海を経てエーゲ海、地中海に繋がります。黒海の海水は、河川から流入した冷たい低塩分の表層水と、地中海から流入した暖かく塩分の濃い深層水が混ざらずに層状になるため、深層は酸素欠乏状態になっています。それでは、黒海におけるこの河川の水(汽水)と地中海の海水の交流は過去どのような歴史をたどってきたのでしょうか?この課題に取り組んだのが本論文です。
Badertscherらは、黒海南縁に位置する北トルコSofular洞くつの石筍(鍾乳石)が記録する酸素の同位体比に注目しました。石筍が記録する酸素同位体比は、当時の水蒸気の組成を反映するとすれば、黒海に近い位置で形成した石筍は黒海の海水の酸素同位対比を反映する、と考えたのです。石筍より測定された過去およそ67万年間の酸素同位体比の変動記録は、地中海の海水由来と考えられる重い酸素の同位体比組成を示す時期が12回、カスピ海の汽水よりもたらされたと考えられる軽い酸素同位対比を示す時期が7回あることを示しました。石筍の記録は、途中に欠けてている部分があるので、黒海にこれらの水が流入した回数はもっと多かったかもしれません。地中海の海水が黒海に流入したと考えられる時期は、当時の海水準が高くなった時期とよく一致しました。当時の海水準変動と比較すると、52万年前(酸素同位体ステージ 15)以降の時代は、地中海と黒海を隔てた陸橋の高さは現在と大きく変わらなかったことがうかがえます。また、汽水流入と考えられる軽い酸素同位体比の影響は、16万年以前の記録の方がそれ以降のものよりも大きいので、大きく氷床が張り出した中期更新世の時代の方が溶氷による水の流入が手伝って黒海への汽水の流入量が大きかったのではないかと、この研究では指摘されています。

最低でも12回地中海の海水と交流があったということは、その間に黒海の環境はどのように変わったのでしょう。還元環境の研究を目指すものとしては、とても興味があります。(高橋聡)

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