2012年8月10日金曜日

水月湖の先行研究(2)-SG06

みなさんおはようございます。
烏田でございます。

やはり終盤に近くなると疲れが出て来ますね。
自分もブログを更新しようとする前についつい寝てしまうことが多いです。

では前回からの続きを書きたいと思います。
前回までは水月湖でのSG06に至る所まで話しました。

今回はSG12にも参加して下さっている中川先生が行われた2006年の掘削に焦点を当てます。


まず中川先生は前回のコアで得られた結果について2つの問題点(1:放射性炭素, 2:コアの欠損)を考えました。
そして 2: コアの欠損 に非常に大きな問題があるとの結論に辿り着きました。

堆積物のコア採取をやられた事ない方には分からないと思いますが(自分もこちらに来るまで知らなかった・・)湖や海などで堆積物を連続採取時にどうしても欠損が生じてしまうのです。

これは堆積物を取り上げる時に真空が発生してしまうことが原因となっています。
ヘタクソな図ではありますが、 引き上げ時に元堆積物があったスペースが空洞になって真空が発生します。この真空発生は今回の掘削を行われた西部試錐さんも掘削中に真空の発生を抑える方法を色々試されるように掘削時には免れません。

そしてこの真空の悪い所は路肩や直下の堆積物を乱してしまうことにあります。そのため連続的な試料を取ることがこれまでかないませんでした。


この大きな問題に対して、中川先生はあるアプローチを試みました。

それは「掘削深度を微妙にずらしたコアを同じ箇所で複数本回収する」というものでした。

コンセプトとしては欠損部分を他のコアを使うことで補うというものです。
これには水月湖の堆積物に年縞があること、また多数の洪水や地震によると思われる特徴的なイベント層が多数あるため、異なるコアの対比が容易であることも利用しての方法です。
 上の画像は(Nakagawa, 2012)からの一部抜粋でSG06で行われた実際のコア対比例になります。違うコアでも白いいくつかのイベント層が綺麗に揃うことが分かると思います。

そしてこの作業を延々と繰り返すことによってSG06では70m以上におよぶ完全連続層序を実現しました!

今回の掘削(SG12)では40m程度の掘削を行っているのですが、この対比が非常にやっかいです。。
今回は中川先生の指導の元M1の鈴木君がこの比較作業をしていましたが、掘削時は常に堆積物と向き合って堆積物の記載を行い、ホテルに帰っても比較とコアの連続性の確認を行っていました。本当にすごい作業量です。

さらに中川先生達はこのSG06にて年縞数えについても
堆積物薄片による目視でのカウントとXRFスキャナーによる化学的な年縞カウントの2つの方法を用いて改めて厳密に測定を行われました。

数は7万枚。。はてしなく遠い数ですが、このSG06ではこの年縞の数えが本当に行われました。

さらにさらに中川先生達は前回の問題点である放射性炭素年代についても、一つ一つの機械による誤差をなくすために2つの研究室測定を行いました。
数は合計800箇所以上(前回の3倍以上のデータ数)。
まさに狂っていると言ってもいいレベルの数の測定をされました。


このクレイジーな精度で行われたSG06の結果は見事先月(7/13日)に世界に認められて、
来年から使用される放射性炭素年代の較正データ(Intcal)に正式に採用されることが決定しました!!!

そしてこのデータには前回認められなかった北川先生のデータも含まれています。これは中川先生が丹念にSG06と北川先生のコアの比較を行われた結果です。

実はこのニュースは水月の掘削作業時に聞かされたのですが、本当にその時の中川先生の表情が忘れられません。実は中川先生は93年の掘削時に学生として参加されており、関わり始めて実に20年近くの時が立って遂に水月湖のすばらしさが認められたことになります。
あの表情は研究生活が数年も経っていない自分には想像できない色々な感情があったのだと思います。


こうして見事に前回のリベンジを果たして世界に認められた水月湖の堆積物ですが、この世界に認められたことで非常に強いアドバンテージを持ちました。

それは水月湖の堆積物が「地質時代の時代決定基準」になったということです。
これがどれほどの強さかというと例えるならばイギリスのグリニッジ天文台(世界の時計の標準地)が水月湖に来たと言っても過言ではありません。

古気候研究は簡潔に言えば「どこで」「いつ」「何が」起きたかを知る研究です。
そして他の研究との比較の際「いつ」が常に問題になる学問であります。

この「いつ」の基準が水月湖になったのですからこのアドバンテージについて少しはお分かり頂けましたでしょうか?


このアドバンテージの重要性に気付き、さらに水月湖の研究を発展をさせたいというのが今回SG12の位置づけになります。ではこのSG12で何をやるのかについてはまた次回ということにしましょう。

ではでは。

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