Atmospheric Pco2 Perturbations Associated with the Central Atlantic Magmatic Province
Morgan. Schaler et al., 2011, Science 4, 236–239
三畳紀/ジュラ紀(T/J)境界は, 顕生代最大規模の絶滅事変の一つで, その原因として大規模火山活動の影響が指摘されています。 その証拠として絶滅と同時期の洪水玄武岩(Central Atlantic Magmatic Province;通称CAMP)があり,この火山活動に伴って放出されたC O2が温暖化を引き起こして絶滅が起きたというシナリオでした。 しかし,火山活動の前後における大気CO2濃度変動の証拠はあり ませんでした。
三畳紀/ジュラ紀(T/J)境界は,
この論文では,Newark超層群のT/ J境界前後の古土壌の炭素同位体比変動から,当時の大気CO2濃 度を推定しました。土壌中のCO2濃度は有機物の分解により大気 CO2濃度より高くなっているため,大気と土壌のCO2濃度差が 高いと拡散速度が速くなります。 この拡散に応じて同位体分別が引き起こされるため,土壌CO2濃 度などを仮定することで大気CO2濃度を推定できます。 研究対象のNewark超層群には火山活動の証拠である洪水玄武 岩が60万年間に3層も堆積しているため,それぞれの 火山活動と二酸化炭素濃度変動を直接比較できます。
その結果,3層の洪水玄武岩各々の直上で大気CO2濃度が約2000pp mから4000ppmまで上昇し, その後徐々に減少していく傾向を発見しました。最下層の洪水玄武 岩が恐竜の足跡化石や植物化石などからT/ J境界直前に対応することが知られています(Olsen et al., 2002Science, Whiteside et al., 2010PNAS)。すなわち,彼らの結果は最初の火山活動に伴う大気CO2 増加によって大量絶滅がおこり,その後の温暖化によって“新鮮“ な洪水玄武岩が風化され,大気CO2濃度が減少したと解釈されま す。噴火直後の“新鮮“な洪水玄武岩は風化されやすく, ケイ酸塩風化の過程で大気CO2濃度を減少させたと考え られます.この大気CO2濃度の減少は,Dessert et al. (2010)による地球化学シュミレーションの結果とも調和的でした。これらの結果から,著者らは大規模火山活動とその後の大気CO2濃度の増加-減少,そして大量絶滅との前後関係を,初めての地質学的証拠から実証しました.
余談ですが,この論文の著者のMorgan Schallerは今年博士を取ったばかりのイケメンで、 私がコロンビア大学留学中の調査などでお世話になりました。これからの大気CO2 濃度変動と気候変動に関する研究の発展に期待さ れます。
(池田昌之)